古本を読む

古本を読んで要約や感想などを書いています

森戸辰男 クロポトキン 

クロポトキン

昭和24年(1949)初版 アテネ文庫 弘文堂

著者 森戸辰男

 

クロポトキンの生い立ちや社会運動家としての生涯を紹介する本。

著者の森戸辰男は『クロポトキンの社会思想研究』という論文を執筆し東京帝大を追放されている(森戸事件)。

 

“究極の社会理想として無政府共産主義の正しさを確信するに至った”

はしがきにて森戸辰男はクロポトキンへの共感を表明する。権力と搾取のない社会、万人に自由と安楽の保証される社会。それだけでなくクロポトキンの生きざまにも心酔している様子がうかがえる。

 

クロポトキンは貴族の家に生まれ、父は軍人であった。家庭は裕福とはいえず「けちけちした経済」で貴族の体面とは虚飾であった。少年侍従隊学校に入校。そこでは自然科学を学び研究者としての素養を養う。成績が良く首席でありながらもエリートコースには進まずシベリヤへ赴任。そこで彼は進歩的将軍のもとで民政改革を学ぶ。これが無政府主義者となる彼の礎をなす。その後、ポーランド独立運動に関係したポーランド流刑者の反があり、その残酷な鎮圧を知ったクロポトキンは軍を辞職する。

 

それからシベリヤを離れペテルブルクの大学に入学し五年間彼は数学を学ぶ。そこでは地理学での新発見をなし学者としての地位を確立する。だが彼はそれを良しとせず社会運動家を志す。スイスのチューリッヒで国際労働者協会に加入し労働者運動に参加、そして無政府主義者になる。

 

クロポトキン無政府主義者になるきっかけはスイスのジュラで懐中時計製造業の職人たちに感銘を受けたからであった。自宅で働き、自由に会話でき、職人の間にはより多くの独立とより多くの独創とがある。労働者が人から指導され、かつ少数者の政治上の目的に屈従されている群衆でない。

「ジュラ山中において見出した平等主義に基づく相互関係、私が労働者の中に発達しつつあるを見たところの、思想と表現の独立、主義に対する彼らの無制限な献身的態度は、さらに一層強く私の感情に訴えた」

 

 以後彼はヨーロッパ各国で運動に従事し、『パンの征服』『田園と工場と職場』および『相互扶助』を出版した。

 

 

~本を読んで~

この本では著者である森戸辰男のクロポトキンへの賛辞が書き連なる。クロポトキンの生活は芸術的で、ヒューマニスティックな性格…それほど彼を敬愛する著者が憲法草案を作成し、現憲法にも採用されているというのには驚く。GHQマルクスはダメでもクロポトキンはOKだったのだろうか。